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白光真宏会 出版本部



立ち読み - 小説 阿難(あなん)

第一部、孫陀利姫(そんだりひめ)と摩須羅(ますら)
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「闘ってはならぬ、武器をとってはならぬ、世尊(せそん)の教を守らぬか、世尊のみ教をーー」
父王の絶叫が次第に遠くに霞んでしまって、ぽっかりと眼の前に秀麗な阿難(あなん)の顔が現われる。
「阿難様ーー、私を援けに来て下さった、阿難様が私を援けに来て下さったーー」
そう思った瞬間、孫陀利姫(そんだりひめ)はそのままひき入られるように意識を失っていった。
勇士摩須羅(ますら)は阿修羅(あしゅら)のような奮戦をつづけていた。
「戦わずして死ぬ馬鹿があるか」彼は王の命令を無視して、敵陣の真只中に躍り込んでいたのである。
この国随一の勇者は、六尺有余の堂々たる体躯と歴戦で鍛えた腕とに全信頼をかけ、縦横に敵兵を斬り倒していた。
斬れども、倒せども敵兵の数はなかなかに減らない。しかも味方は三人四人、後につづく勇者はいない。
「もういけない」彼は敗戦をはっきり意識すると、急にはっとある恐れが胸を走った。彼は咄嗟(とっさ)に踵(きびす)を返すと、敵の存在を忘れたように快速で城内に駈け戻っていった。
摩須羅は駈けながら、燃えあがるような忿懣(ふんまん)で胸が苦しくなっていた。
「馬鹿な奴だ、馬鹿な、馬鹿な」全軍が奮起して戦えば勝戦にならぬと誰がいえよう。彼の心の中をこの想いが執拗(しつよう)に繰返される。繰返されるごとに憤(いきどお)りは燃え上がる。
憤怒(ふんぬ)で火のようになった摩須羅が、城中に駈け入った時、
「阿育(あいく)王の首を取ったぞーー」と敵兵の二、三の声が歓喜に上ずった声で叫んでいるのが、耳に入った。摩須羅は、はっとして思わず二、三歩その声の方向に足をむけかけたが、思いとどまって、最初の目的である姫の部屋にむかって走り去った。


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